大気中への二酸化炭素が増えると地球が温暖化し異常気象が発生して人々の暮らしに影響すると言われています。どんな問題があって、どんな影響がでるか? 私たちは何をすればよいのでしょうか?
何も対策とらなければ100年後には4℃気温が上昇し、多くの種の絶滅リスクあり
国連のIPCC(気候変動に関わる政府間パネル)の第5次報告書(2014年発表)では、産業革命前(1850~1900)と比べた気温上昇の影響を次のように示しています1)。
1℃
・暑熱や洪水など異常気象による被害が増加
・サンゴ礁や北極の海氷などのシステムに高いリスク、マラリアなど熱帯の感染症の拡大
2℃
・作物の生産高が地域的に減少
3℃
・利用可能な水が減少
・広い範囲で生物多様性の損失が起きる
4℃
・大規模に氷床に消失し海面水位が上昇
・多くの種の絶滅リスク、世界の食糧生産が危険にさらされるリスク
何も対策もとらずこのまま二酸化炭素を放出し続けると、100年後には4℃上昇してしまう、というのがIPCCの見解です。それでは大変なことになるので、「地球の平均気温の上昇を、産業革命の前と比べて「2℃未満」に抑える」ことが必要(できれば1.5℃以内)と主張しています。
世界の動き
この報告を受けて世界は温暖化対策に動きだしました。2015年にパリで開かれた、温室効果ガス削減に関する国際的取り決めを話し合う「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」の中で次が合意されました。いわゆるパリ協定です2)。
パリ協定では次を目標にしています。
- 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
- そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる
パリ協定は、主要排出国だけでなく、途上国を含む参加国すべてに削減義務がある画期的な合意です。
世界一の排出国である中国をはじめ、EU各国、インド、ロシアなども参加しています。
日本では、中期目標として、2030年度の温室効果ガスの排出を2013年度の水準から26%削減することが定められました。国内企業も、それぞれに削減目標を定めて具体的な取り組みをはじめています。例えば、トヨタ自動車は、2015年10月には「トヨタ環境チャレンジ2050」3)を定め、2050年には自動車製造工程のライフサイクル全体における二酸化炭素排出量をゼロにするという取り組みをはじめています。
「2℃未満」では不十分!? 残された時間は少ない!
パリ協定の合意を受け、主要各国の目標も定まって、一安心してたところ、IPCCから「1.5℃特別報告書」が発行されました。ここには驚くべきことが書かれています。その概要は次のとおりです3)。
- 目標として示した2℃では不十分で、1.5℃の方が安全である。
- 1.5度の上昇でも、現在よりもかなりの悪影響が予測される
- 1.5℃には、世界の排出量を2030年に▲45%(2010年 比)、2050年には実質ゼロにする必要がある
- 現在のペースで排出量が増加し続けると、2030~2052年の間に、1.5℃に達する見込みである。
- 人間活動によって、産業革命前に比べて、すでに約1度上昇している
100年後のずっと先のことかと思っていましたが、私の想像よりもずっと早く、大きな影響をうけそうですし、もっと大胆な対策が必要と説明されています。2030年というとあと10年です。すでに1℃上昇しているので、残り0.5℃しかありません。
この記事を書いている2020年7月11日現在、九州を中心に全国各地が豪雨に襲われ甚大な被害がでています。昨年は東日本や東北地方が大きな台風被害とそれに伴う豪雨に遭いました。数十年に一度と言われる洪水や河川増水が毎年のように発生するようになってきています。地球温暖化との関係は明らかといえるのではないでしょうか。とにかく時間がないことを認識しなければなりません。
私たちにできることは何か?
比較的簡単に二酸化炭素の排出量削減に貢献できる方法が私たち個人にもあります。それは、電気とガソリンをできるだけ使わないことです。
電気の節約4)
ご家庭で節電すれば、二酸化炭素排出量は減ります。
一般家庭における電力消費による二酸化炭素排出量は、約1億トン/年です。もし、全国のご家庭で20%の節電をしたとすると、0.2億トン/年の二酸化炭素排出削減ができます。2000万トンと言い換えた方がわかりやすいかもしれません。日本の二酸化炭素排出量の総計は約12億トン/年ですので、そのうちの1.7%の削減効果です。
不要な照明を消したり、つけっぱなしのテレビを消したり、エアコンの温度を少しだけ緩めたりするだけでも効果ありそうです。
ご家庭に太陽光パネルを設置して、電力会社からの電力購入量を減らせば、もっと効果がありそうです。ご家庭向けの燃料電池(エネファーム)や、ヒートポンプ(エコキュート)を導入も有効です。
1.7%と聞くと大したことないじゃないかと思うかもしれませんが、そんなことありません。数字として表れるような行動を消費者が起こせば電力会社に大きなプレッシャーを与えることができます。
ガソリンの節約4)
ガソリンの削減も効果があります。
一般家庭のガソリン消費による二酸化炭素排出量は、約0.5億トン/年です。もし全国の自動車が50%のガソリン節約をすると、0.25億トン/年の二酸化炭素削減ができます。
近場の買い物に行くときは自転車や徒歩にしたり、公共の乗り物を使うのはとても効果があります。急加速・急発進をやめたりするだけも効果ありそうです。
車を買い替えるときには、できるだけ燃費の良い車を選ぶとよいでしょう。ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)の普及が望まれます。
削減効果が小さいのでは?無意味なのでは?
一般家庭で節電とガソリンの節約を合わせた効果はせいぜい0.45億トン/年。国内の総排出量12億トン/年に対して決して大きくはありません。
それでも大きな効果があります。
消費者が節電することで化石エネルギー由来の電力にNOの意思を示し、それが数字として表れるようになれば電力会社は慌てます。なんとかして電気を使ってもらうための方法を考えるでしょう。石炭火力発電をやめてLNGガス発電に変更すると、億トン単位で削減できます。さらには、太陽光・風力・水力・地熱などの自然エネルギーが普及すれば、いずれは発電による二酸化炭素発生量をゼロにすることも可能です。
ガソリンについても同様です。消費者が二酸化炭素排出に関心をもっていることが数字で示されるようになれば、自動車会社にプレッシャーを与えることができます。HEV車、EV車は手頃な価格に低下し、ますます普及し、いずれはガソリンを全く使わない車社会が実現するでしょう。技術の進歩と、国の支援に期待したいですね。
消費者が行動を起こせば、電力会社や自動車会社だけでなく、政治家も気にするようになります。NOの意思を示すことが大切です。
その他の削減方法は?
鉄鋼、化学、素材などの産業界もそれぞれの目標を定めて、いろんな方法で削減努力をしています。省エネルギーな製造方法に変更したり、原料~廃棄物まで全体を見渡して二酸化炭素排出の少ない方法に変更しようとしています。
国や研究機関では様々な研究が行われています。排気ガス中の二酸化炭素をあつめて化学原料にしたり、二酸化炭素を地中や海底に埋める方法も検討されています。
いろんな方法で、2050年には実質的な排出量ゼロを達成してほしいですね。
1)WWF,地球温暖化についてのIPCCの予想シナリオhttps://www.wwf.or.jp/activities/activity/1035.html
2)経済産業省 資源エネルギー庁、今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/pariskyotei.html
3)WWFジャパンセミナー「気候危機には1.5度目標がトレンド」https://www.wwf.or.jp/activities/data/20191101Konishi.pdf から一部引用
4)「全国地球温暖化防止活動推進センター」https://www.jccca.org/home_section/homesection01.html 掲載資料から試算
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